栃木求人マーケットは栃木県宇都宮市の求人情報がどこよりも詳しく掲載

 
  宇都宮ブリッツェン コラム【第19回】連覇を逃したシクロクロス全日本選手権
 
 
勝つことがとても難しいレース。
そして、勝ち続けることはもっと難しいレース。

全日本選手権は、まさにその最たるレースと言えるだろう。
12 月9日に滋賀県高島市のマキノ高原スキー場で開催された今年のシクロクロス全日本選手権大会で、宇都宮ブリッツェンシクロクロスチームの小坂光は、その難しさを嫌というほど味わった。

スタート直後の、第1コーナーを抜けた先。
前方を走る選手がペースダウンしたことで行く手を阻まれた小坂は、唯一と言っても過言ではない走行ラインを外さざるを得ず、深い雪にはまってしまいストップ。
復帰にも手間取り、順位を15 番手前後にまで下げてしまう状況となった。

正直、勝負はこの時点で決まってしまっていた。
全日本選手権で勝つには、いかにミスをしないか、ミスをしてもいかに最小限に抑えられるかが重要で、実力以上の「運」を味方につけた者にのみ、勝利の女神は微笑む。
小坂は、スタート直後に勝利の女神にそっぽを向かれてしまったのだ。

それでも、小坂は決して諦めなかった。
レース復帰後すぐに数人の選手を抜き去ると、1周目の終わりには5番手にまで順位を上げ、終盤にはさらに2選手をかわして3位でフィニッシュ。
連覇という大きな目標を達成することは叶わなかったが、2012 年から続く連続表彰台獲得を7に伸ばした。

目標を達成できなかった負けレースには変わりないので言うのは憚られるが、この日のレースは、筆者が小坂を追い始めた頃から数えても、ベスト3に確実に入るレースだったと感じている。
それだけの走り、そして追い上げを、小坂は見せた。

そう感じさせるレースを小坂ができたのは、彼が昨年に「王者」になったからではないか、と今は思う。
日本王者は、その競技の頂点に立ち、国内の競技自体をけん引することが求められる孤高の存在。
王者になった瞬間から、周囲はそういった目線で見てくるし、多くの期待を王者の両肩にのしかける。
そんな重圧を1年間背負い続けてきた人間が、精神的に成長しない訳がない。
知らず知らずのうちに、小坂には王者としての「意地」と「プライド」が植え付けられていた。
だからこそ、危機的な状況の中で自身のベストと言えるレースができたのではないかと思うのだ。

ただ、今回の全日本選手権の結果で、小坂が「王者」からただのいちシクロクロス選手へと戻ったのは、紛れもない事実。
そして、王者から引きずり降ろされた、数少ない選手の一人にもなった。
長年にわたって頂点に立つことを熱望した男がやっとの思いで頂点に立ち、そこから引きずり降ろされた時にどんな変化が生まれるのか。

一度身に纏った王者の意地とプライドは、そう簡単には消えてなくならないはず。
そこに頂点から引きずり降ろされた悔しさが加わった小坂は、きっとまた大きく成長するはず。
そんな彼の成長をまた、間近で見ていたいと素直に思っている。
 
 
小森信道
Komori Nobumichi

スポーツの感動を「コトバ」で読み解き、写真で伝える、編集事務所ハットトリックカンパニー代表。
2011 年より宇都宮ブリッツェンオフィシャルとしてサイクルスポーツの取材を始め、現在では新聞連載やweb メディアにも数多く寄稿するなど活躍の幅を広げている。

サイクルメディアグループ「Porte au Village」メンバー。